こんにちは。
マネーリテラシー講師の芹沢慎一です。
今日は、ある地方都市で長年愛されてきた老舗企業が、“慣習に頼った取引”のせいで資金繰りに苦しんだケースをお話しします。
代々続く「付き合い」の力学
ご相談いただいたのは、創業70年を迎える食品加工会社。
地域では名の知れた存在で、社長も三代目。
開口一番、こんな言葉が飛び出しました。
「芹沢さん、ウチね、昔からのお得意さんが多いんですよ。だから信用調査とかやったことないんです」
売上は安定していたのに、資金繰りはいつも綱渡り。
調べてみると、その“昔からの得意先”の一部で支払い遅延が常態化していました。
現場調査で見えた「昭和の取引」
机の上に並ぶのは、手書きの請求書ファイルと、「月末まとめ払い」という口約束の慣習。
営業担当者に聞くと、
「先代のころからの取引先だから、多少遅れても見逃してきました」
とあっけらかん。
しかし“多少”が積み重なれば、資金繰りに直結します。
改善プラン――「伝統」と「仕組み」のバランス
私は次の三本柱を提案しました。
- 支払い条件の契約書化
「昔からの付き合い」でも、正式な契約書を作成。条件を“紙”に落とし込む。 - 遅延モニタリングの導入
月ごとに入金予定と実績を突合し、遅れが出たら即アラート。 - 得意先との定期面談
「顔を合わせる」文化を大切にしながらも、数字を基に改善点を話し合う。
社長の心の葛藤
三代目社長は、最初は渋い表情でした。
「祖父や父の代から続いてきた信頼を壊すようで…」
でも私はこう伝えました。
「信頼は“守る”ものですが、守るためには“ルール”が必要です。
ルールがあるからこそ、信頼は長続きするんです。」
その言葉に社長は深くうなずきました。
半年後の変化
半年後、再び訪問すると社長は笑顔で迎えてくれました。
「取引先との関係も悪くならなかったし、むしろ“きちんとした会社だ”と見直されましたよ」
実際、遅延は大幅に減り、キャッシュフローは安定。
「伝統を守りながら仕組みを変える」一歩を踏み出せたのです。
最後に
この案件から得た学びはこうです。
- 慣習をそのまま残すと、時代に合わないリスクになる
- 伝統は大切だが、守るには仕組み化が欠かせない
- ルールは信頼を壊すのではなく、信頼を支える土台になる
“昔からの付き合い”は確かに強み。
でも、会社を未来へつなぐには、数字と仕組みで裏打ちされた信頼が必要です。
それではまた。 #慎一のマネー講座 もよろしくお願いします!