【昔からの付き合いだから大丈夫?】老舗企業が直面した与信の落とし穴

2025年8月16日

//

芹沢慎一

こんにちは。
マネーリテラシー講師の芹沢慎一です。

今日は、ある地方都市で長年愛されてきた老舗企業が、“慣習に頼った取引”のせいで資金繰りに苦しんだケースをお話しします。

代々続く「付き合い」の力学

ご相談いただいたのは、創業70年を迎える食品加工会社。
地域では名の知れた存在で、社長も三代目。
開口一番、こんな言葉が飛び出しました。

「芹沢さん、ウチね、昔からのお得意さんが多いんですよ。だから信用調査とかやったことないんです」

売上は安定していたのに、資金繰りはいつも綱渡り。
調べてみると、その“昔からの得意先”の一部で支払い遅延が常態化していました。

現場調査で見えた「昭和の取引」

机の上に並ぶのは、手書きの請求書ファイルと、「月末まとめ払い」という口約束の慣習。
営業担当者に聞くと、

「先代のころからの取引先だから、多少遅れても見逃してきました」

とあっけらかん。
しかし“多少”が積み重なれば、資金繰りに直結します。

改善プラン――「伝統」と「仕組み」のバランス

私は次の三本柱を提案しました。

  1. 支払い条件の契約書化
     「昔からの付き合い」でも、正式な契約書を作成。条件を“紙”に落とし込む。
  2. 遅延モニタリングの導入
    月ごとに入金予定と実績を突合し、遅れが出たら即アラート。
  3. 得意先との定期面談
     「顔を合わせる」文化を大切にしながらも、数字を基に改善点を話し合う。

社長の心の葛藤

三代目社長は、最初は渋い表情でした。

「祖父や父の代から続いてきた信頼を壊すようで…」

でも私はこう伝えました。

「信頼は“守る”ものですが、守るためには“ルール”が必要です。
ルールがあるからこそ、信頼は長続きするんです。」

その言葉に社長は深くうなずきました。

半年後の変化

半年後、再び訪問すると社長は笑顔で迎えてくれました。

「取引先との関係も悪くならなかったし、むしろ“きちんとした会社だ”と見直されましたよ」

実際、遅延は大幅に減り、キャッシュフローは安定。
「伝統を守りながら仕組みを変える」一歩を踏み出せたのです。

最後に

この案件から得た学びはこうです。

  • 慣習をそのまま残すと、時代に合わないリスクになる
  • 伝統は大切だが、守るには仕組み化が欠かせない
  • ルールは信頼を壊すのではなく、信頼を支える土台になる

“昔からの付き合い”は確かに強み。
でも、会社を未来へつなぐには、数字と仕組みで裏打ちされた信頼が必要です。

それではまた。 #慎一のマネー講座 もよろしくお願いします!