【事例紹介】 「親戚だから大丈夫?」身内取引が招いた与信トラブル

2025年8月16日

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芹沢慎一

こんにちは。
マネーリテラシー講師の芹沢慎一です。

今日は、ある中小企業で起きた“身内取引の落とし穴”についてお話しします。
「親戚や知人だから大丈夫」という思い込みが、会社の資金繰りを揺るがしたケースです。

きっかけは「信用調査なんて要らないよ」

ご相談をくださったのは、地方で建材を扱う中小企業の社長。
開口一番こう言いました。

「取引先の親戚が経営してる工務店が、支払いを2か月遅らせてて…。でも“そのうち払う”って言ってるし、信用調査とかするのは気まずくてね」

実際に帳簿を確認すると、その工務店への売掛金は会社の資金繰りに直結する規模。
しかも遅延が続いているにもかかわらず、社長は「親戚だから」と手を打てずにいたのです。

初日のヒアリング

私は社長に率直に尋ねました。

「もし回収できなかったら、会社の資金はどれくらい持ちますか?」

社長は少し沈黙した後、
「……正直、厳しいですね」
と小さな声で答えました。

身内だからこそ遠慮してしまい、逆に会社のリスクを大きくしていたのです。

改善プラン――「情」と「経営」を分ける

私は3つの対策を提案しました。

  1. 取引ルールの明文化
    たとえ親族でも、契約書・支払い条件を明文化。口約束に依存しない。
  2. 与信の“形式化”
    信用調査や決算資料の確認は「全取引先共通ルール」として導入。身内を特別扱いしない。
  3. 回収交渉の第三者化
    社長本人ではなく、経理担当や弁護士を通して交渉。感情を切り離す仕組みに。

社長の葛藤

社長は最初、「親戚にそんなことをしたら関係が悪くなる」と渋い顔。
でも私はこう伝えました。

「会社を守るのは社長の責任です。親戚との“人間関係”と、会社のお金を守る“経営判断”は別の話です」

やがて社長も納得し、ルール化に踏み切りました。

数か月後の成果

数か月後には、問題の工務店も徐々に支払いを正常化。
社長はこう振り返りました。

「最初はぎくしゃくしたけど、“会社のルールだから”と説明できるようになって楽になりました」

最後に

この案件からの学びは明快です。

  • 信用は“関係性”ではなく“数字”で測る
  • ルールを人ではなく“会社の仕組み”に落とし込む
  • 経営と情を分ける勇気が、会社を守る

身内取引は珍しくありません。
しかし「甘さ」が積み重なると、会社の未来を奪いかねません。
“信頼関係”を壊さないためにも、最初にルールで線引きをすることが大切なのです。

それではまた。次の記事もぜひコーヒー片手にどうぞ。