こんにちは。
マネーリテラシー講師の芹沢慎一です。
今日は、ある中小企業で起きた“身内取引の落とし穴”についてお話しします。
「親戚や知人だから大丈夫」という思い込みが、会社の資金繰りを揺るがしたケースです。
きっかけは「信用調査なんて要らないよ」
ご相談をくださったのは、地方で建材を扱う中小企業の社長。
開口一番こう言いました。
「取引先の親戚が経営してる工務店が、支払いを2か月遅らせてて…。でも“そのうち払う”って言ってるし、信用調査とかするのは気まずくてね」
実際に帳簿を確認すると、その工務店への売掛金は会社の資金繰りに直結する規模。
しかも遅延が続いているにもかかわらず、社長は「親戚だから」と手を打てずにいたのです。
初日のヒアリング
私は社長に率直に尋ねました。
「もし回収できなかったら、会社の資金はどれくらい持ちますか?」
社長は少し沈黙した後、
「……正直、厳しいですね」
と小さな声で答えました。
身内だからこそ遠慮してしまい、逆に会社のリスクを大きくしていたのです。
改善プラン――「情」と「経営」を分ける
私は3つの対策を提案しました。
- 取引ルールの明文化
たとえ親族でも、契約書・支払い条件を明文化。口約束に依存しない。 - 与信の“形式化”
信用調査や決算資料の確認は「全取引先共通ルール」として導入。身内を特別扱いしない。 - 回収交渉の第三者化
社長本人ではなく、経理担当や弁護士を通して交渉。感情を切り離す仕組みに。
社長の葛藤
社長は最初、「親戚にそんなことをしたら関係が悪くなる」と渋い顔。
でも私はこう伝えました。
「会社を守るのは社長の責任です。親戚との“人間関係”と、会社のお金を守る“経営判断”は別の話です」
やがて社長も納得し、ルール化に踏み切りました。
数か月後の成果
数か月後には、問題の工務店も徐々に支払いを正常化。
社長はこう振り返りました。
「最初はぎくしゃくしたけど、“会社のルールだから”と説明できるようになって楽になりました」
最後に
この案件からの学びは明快です。
- 信用は“関係性”ではなく“数字”で測る
- ルールを人ではなく“会社の仕組み”に落とし込む
- 経営と情を分ける勇気が、会社を守る
身内取引は珍しくありません。
しかし「甘さ」が積み重なると、会社の未来を奪いかねません。
“信頼関係”を壊さないためにも、最初にルールで線引きをすることが大切なのです。
それではまた。次の記事もぜひコーヒー片手にどうぞ。