こんにちは。
マネーリテラシー講師の芹沢慎一です。
今回は、私がシンガポールの中堅輸出商社でお手伝いした「資金繰り改善」のお話をします。
きっかけは、CFOからのオンライン相談でした。
「黒字なのにキャッシュが常に薄氷の上…特に為替と回収の遅れが重なった時が怖い」
決算上は堅調な利益を出しているにもかかわらず、現預金残高は月末ごとにゼロに近づく——そんな状況でした。
背景——多通貨と長期サイトの二重苦
この商社は、東南アジア全域に日用消費財を卸す社員120名の企業。
売上の8割が米ドル建て輸出、仕入れは人民元・日本円・豪ドルとバラバラ。
さらに、
- 売掛金回収サイト:平均120日
- 仕入れ支払いサイト:45日
という大きなズレが存在。
加えて、取引先の中にはインドネシアやフィリピンなど、銀行決済に時間がかかる国も多く、支払遅延は日常茶飯事。
最初の一手——“資金の多言語マップ”をつくる
まず着手したのは、通貨ごとの入出金スケジュールを色分けした資金繰り表の作成。
すると、米ドルの回収が遅れると、日本円建ての仕入れ支払いに直撃する“為替の綱渡り”が可視化されました。
導入した3つの改善策
- 通貨マッチング(自然ヘッジ)の強化
米ドル建てで仕入れられる商品の比率を増やし、回収通貨と支払通貨を合わせて為替リスクを減らす。 - 回収条件の短縮交渉
主要取引先5社と直接会談し、LC(信用状)やDP(書類渡し決済)などの決済条件を導入。平均サイトを15日短縮。 - 多通貨資金繰りカレンダーの共有
営業・財務・仕入れ部門が同じカレンダーを使い、販促や仕入計画を為替・入金予定とリンクさせて決定。
現場の変化——「為替と現金の両立」へ
特に変わったのは営業チームの意識でした。
以前は「ドル建てなら問題なし」と思い込んでいたのが、為替タイミングと支払いサイトを意識した契約交渉にシフト。
財務チームからも「営業と同じ地図を見て会話できるのは初めて」という声が上がりました。
成果
導入から5か月後、ドル建て資金繰りの安定性が向上し、短期借入は前年同月比で40%減少。
さらに、為替変動による利益のブレ幅も約30%縮小しました。
CFOがプロジェクト終了時に笑って言いました。
「今まで“何曜日に資金が尽きるか”を数えていたのが、今は“何に投資できるか”を考えられるようになった」
最後に
海外取引の資金繰りは、
- 通貨の違い
- 決済習慣の違い
- 為替変動
という三重苦がつきものです。
しかし、通貨マッチング・回収条件短縮・全社カレンダー共有という3本柱を立てれば、そのリスクはぐっと下げられます。
資金の流れが見える化されたとき、会社は初めて「防御」から「攻め」の経営へと舵を切れるのです。
それではこの辺で。#慎一のマネー講座 もぜひお願いします!