【事例紹介】多通貨決済と長期サイトの壁を越えた5か月間

2025年8月14日

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芹沢慎一

こんにちは。
マネーリテラシー講師の芹沢慎一です。

今回は、私がシンガポールの中堅輸出商社でお手伝いした「資金繰り改善」のお話をします。

きっかけは、CFOからのオンライン相談でした。
「黒字なのにキャッシュが常に薄氷の上…特に為替と回収の遅れが重なった時が怖い」
決算上は堅調な利益を出しているにもかかわらず、現預金残高は月末ごとにゼロに近づく——そんな状況でした。

背景——多通貨と長期サイトの二重苦

この商社は、東南アジア全域に日用消費財を卸す社員120名の企業。
売上の8割が米ドル建て輸出、仕入れは人民元・日本円・豪ドルとバラバラ。

さらに、

  • 売掛金回収サイト:平均120日
  • 仕入れ支払いサイト:45日
    という大きなズレが存在。

加えて、取引先の中にはインドネシアやフィリピンなど、銀行決済に時間がかかる国も多く、支払遅延は日常茶飯事。

最初の一手——“資金の多言語マップ”をつくる

まず着手したのは、通貨ごとの入出金スケジュールを色分けした資金繰り表の作成。
すると、米ドルの回収が遅れると、日本円建ての仕入れ支払いに直撃する“為替の綱渡り”が可視化されました。

導入した3つの改善策

  1. 通貨マッチング(自然ヘッジ)の強化
    米ドル建てで仕入れられる商品の比率を増やし、回収通貨と支払通貨を合わせて為替リスクを減らす。
  2. 回収条件の短縮交渉
    主要取引先5社と直接会談し、LC(信用状)やDP(書類渡し決済)などの決済条件を導入。平均サイトを15日短縮。
  3. 多通貨資金繰りカレンダーの共有
    営業・財務・仕入れ部門が同じカレンダーを使い、販促や仕入計画を為替・入金予定とリンクさせて決定。

現場の変化——「為替と現金の両立」へ

特に変わったのは営業チームの意識でした。
以前は「ドル建てなら問題なし」と思い込んでいたのが、為替タイミングと支払いサイトを意識した契約交渉にシフト。
財務チームからも「営業と同じ地図を見て会話できるのは初めて」という声が上がりました。

成果

導入から5か月後、ドル建て資金繰りの安定性が向上し、短期借入は前年同月比で40%減少。
さらに、為替変動による利益のブレ幅も約30%縮小しました。

CFOがプロジェクト終了時に笑って言いました。
「今まで“何曜日に資金が尽きるか”を数えていたのが、今は“何に投資できるか”を考えられるようになった」

最後に

海外取引の資金繰りは、

  • 通貨の違い
  • 決済習慣の違い
  • 為替変動
    という三重苦がつきものです。

しかし、通貨マッチング・回収条件短縮・全社カレンダー共有という3本柱を立てれば、そのリスクはぐっと下げられます。

資金の流れが見える化されたとき、会社は初めて「防御」から「攻め」の経営へと舵を切れるのです。

それではこの辺で。#慎一のマネー講座 もぜひお願いします!